silence
2004/12/29
  2.5m
『しかし、こっけいなくらい語彙は貧困だった。彼女の頭が、ちょうど僕の鼻の位置にあり、僕が「君の髪の匂い」と呟くと、彼女が「くりくり丸い」と後を受けて、僕の尻を小刻みにさすりつづける。言葉が有効なのは、いずれ相手を他人として識別できる2.5メートルの線までのことである。』
『一日じゅう、僕らは体の一部をたえず接触させつづけていた。半径2.5メートルの輪をはみ出すことは滅多になかった。その距離だと、ほとんど相手が見えないのだが、べつに不都合は感じない。部分を想像の中でつなぎ合わせれば、結構見えているような気持ちになれたし、それ以上に相手から見られていないという解放感が大きかった。』(安部公房「箱男」)

他人として識別できる2.5メートル。それ以上離れると個人的な関係が取りにくかったり、個人的なやりとりができなくなったりする。でも形式的な話をすることができなくなる距離というのはいかがなものか。近すぎて何を言っても届かなかったり、言うこと自体滑り落ちてしまうことは多々あった。悲しかった。以心伝心というにはほど遠いくらい、分かり合ってないのに交わす語彙が貧困ではわかり合える筈もない。


 
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